経営が傾いたとき、判断できない経営者がいる。

不採算の事業をやめられない。固定費を見直せない。誰も減らせない。

その状態を、本人は優しさだと思っていることがある。でも実際に起きているのは、判断の先送りだ。そして先送りされたぶんは、確実に利子がついて後から回ってくる。

誰かを守っているつもりで、時間が経つほど全員を守れなくなる。これが一番よくない。

優先順位を、平時に決めておく

全部は守れない。これは前提として動かない。

雇用、顧客、サービスの水準、理念、キャッシュ。どれも大事だが、追い詰められたときに全部は無理だ。そして追い詰められてから順位を考えると、そのときの感情で決めてしまう。

だから、平時のうちに順番を決めておくべきだと思っている。

うちの場合、いちばん上はキャッシュだ。冷たく聞こえるかもしれないが、これは価値観の話ではなく順序の話で、現金が尽きた瞬間に他の全部が守れなくなるからだ。理念も雇用もサービスも、会社が存在していることを前提にしている。

順位を先に決めておくと、判断が感情から切り離せる。その場の空気ではなく、決めておいたルールに従うだけになる。前に、基準は意志ではなく設計で守られると書いた。経営判断も同じだと思う。

ただし、順番は上から使う

ここが一番重要なところだ。

「冷たい決断が必要だ」という話は、それを最後の手段として扱う限りにおいて正しい。最初に使う人は、ただ楽をしている。

順番として、先に手をつけるべきものがある。

経営者自身の報酬。役員まわりの経費。自分が始めて、うまくいっていない事業。固定費のうち、意思決定として自分が選んだもの。

これらを触らずに人の話から始める経営者を、僕は信用しない。人件費は金額が大きいので効きやすい。効きやすいものから手を出すのは、判断力ではなく、単に安易だ。

そして、傾いた原因のほとんどは、現場ではなく経営判断の側にある。自分の失敗の後始末を、他人に払わせる順番にしてはいけない。

守るのは「場」であって「今の全員」ではない

別のところで、うちが守るのはスタッフだと書いた。この記事と矛盾するように見えるかもしれないので、整理しておきたい。

守っているのは、働ける場そのものだ。

会社が潰れれば、雇用も、理念も、これまで積み上げたものも全部消える。全員を守ろうとして全員を失うのが、最悪の結果だ。

だから、場を残すために縮める判断は、スタッフを守ることと矛盾しない。矛盾して見えるのは、決断を先送りして、選択肢がなくなってから動く場合だけだ。

早く決めれば、打てる手は多い。遅く決めるほど、残る手は乱暴なものだけになる。優しさに見える先送りが、結果的に一番冷たい選択肢を招く。

決めたことは、先に伝える

もうひとつ、自分に課していることがある。

守る順番を決めているなら、それを社内に先に言っておく。何かが起きてから初めて明かすのは、フェアではない。

先に伝えておけば、何かが起きたときに「裏切られた」にはならない。少なくとも、判断の前提を共有した状態で議論ができる。

これは冷たいことのようで、実際には逆だと思っている。何も言わずに笑顔でいて、ある日突然決めるほうが、よほど残酷だ。

判断が仕事

経営者がやるべきことは、判断だと思っている。

慰めることでも、場の空気をよくすることでもない。それらは大事だが、他の人にもできる。判断だけは、代わりにやってくれる人がいない。

数字と事実を見る。社内の空気ではなく、市場の反応を見る。自分がどう思われるかを、判断材料から外す。

きれいごとは誰でも言える。難しいのは、決めることのほうだ。

そのうえで、冷たい決断が許されるのは、その手前を全部やったときだけだ。そこを飛ばして冷徹さだけを語るのは、経営ではなく、ただの言い訳だと思っている。