経営をやっていると、成長は正義だと思い込みやすい。

自分がそう思って動いているし、周りにいる経営者もだいたいそうだ。だから、それが標準だと勘違いする。

でも、実際の組織はそうなっていない。

「成長したくない」ではなく「最優先ではない」

よく「人は本来、成長なんてしたくない」と言われる。

これは半分正しくて、半分ずれていると思う。

正確に言うなら、多くの人にとって成長は最優先事項ではない、ということだ。

生活がある。家族がいる。体調がある。趣味も、休息も、別に大事にしているものがある。その中で仕事は重要な要素の一つだが、全部ではない。だから、苦労してまで成長を取りに行かない選択は、怠惰ではなく、単に配分の判断だ。

この違いは大きい。

怠惰だと捉えると、打ち手は「意識を変える」になる。ほぼ確実に失敗する。

配分の問題だと捉えると、打ち手は「配分を変えなくても動く設計にする」になる。こちらは実現可能だ。

苛立ちは、設計失敗のサイン

「やる気があればできるはずだ」

「言っていることは正しいのに、なぜ動かないんだ」

経営者がこう思い始めた時点で、組織は静かに壊れ始めていると思う。

僕も何度もこの状態になった。そのときは相手の問題だと感じていたが、あとから見ると、ほぼ全部こちら側の設計の問題だった。

期限を切っていなかった。粒度が粗すぎた。判断できる権限を渡していなかった。そもそも本人が合意していなかった。前に別の記事でも書いたが、動かない理由は人格ではなく設計にあることが圧倒的に多い。

だから今は、苛立ちを感じたら、それを自分の設計が失敗している通知として扱うようにしている。感情そのものは止められないので、意味づけのほうを変えた。

意欲に依存する設計は、運任せ

意識の高い人だけが使える仕組みは、仕組みとは呼べない。

そういう設計は、要するに「いい人が来てくれるかどうか」に成果を賭けている。うまくいっているときは、設計が良かったのではなく、たまたま人が良かっただけだ。そして人は辞める。

再現性がないものを、仕組みとは言わない。

前に、基準は決意ではなく習慣で守られ、習慣は意志ではなく設計で作られる、という話を書いた。個人でそうなのだから、他人が集まる組織ならなおさらだ。

具体的に何をするか

抽象論では動かないので、実際にやっていることを書く。

デフォルトを変える。 やる人が申告する形ではなく、やらない人が申告する形にする。人は初期設定にかなり弱い。意志ではなく初期値で決まる部分が大きい。

判断の回数を減らす。 毎回考えなければならない作業は、疲れている日に飛ばされる。手順に落として、考えずにできる形にしておく。

摩擦を削る。 「報告してほしい」なら、報告のコストを限界まで下げる。3クリックかかるものは続かない。1クリックなら続く。やる気の差より、手間の差のほうが効く。

やらないほうが面倒になるように置く。 正しい行動が最短ルートになっていれば、意欲は要らない。逆走するほうが手間なら、人は自然に正しい方向に流れる。

成果ではなく行動を測る。 成果は運と環境に左右されるが、行動は本人が制御できる。制御できないもので評価されると、人はやる気を失う。

どれも派手ではない。ただ、全部「本人のやる気を前提にしていない」という一点で共通している。

採用とは、矛盾しない

前に、素直で感じのいい人を採用するのが最強だ、という話を書いた。これと矛盾するように見えるかもしれないが、両立すると思っている。

採用で人を選ぶのは、上振れを作るためだ。設計で意欲に依存しないようにするのは、下振れを防ぐためだ。

採用だけで解こうとすると、常に運任せになる。設計だけで解こうとすると、組織が窮屈になる。両方要る。

縛りすぎると、別の人が死ぬ

副作用も書いておく。

意欲に依存しない設計を突き詰めると、手順が増える。判断の余地が減る。そして、自分で考えて動きたい人にとっては、著しく窮屈な場所になる。

うちは人と話す仕事が中心なので、ここは特に気をつけている。マニュアルで固めるほど、目の前の人に合わせて動く余地が消える。

だから、やらなくても回る仕組みは作るが、やりたい人の上限は塞がないようにしたい。下限は設計で守り、上限は個人に開けておく。言うのは簡単で、実際にはかなり難しい。

前提を間違えない

まとめると、こういうことになる。

組織が機能しないのは、メンバーが劣っているからではない。前提を間違えているからだ。

成長したい人に合わせて設計すると、その人しか動けない。成長を最優先にしていない人でも動ける設計にすると、全員が動ける。そして結果的に、成長したい人はその上を勝手に行く。

強制も、説得も、怒りも要らない。要るのは設計だけだと思っている。

そこに気づくまで、僕はずいぶん人にイライラしていた。あれは全部、自分の宿題だった。