僕はあまり後悔がない方だと思っているが、20代前半を振り返ると、ひとつだけある。学業のことでも、仕事のことでも、恋愛のことでもない。

旅だ。

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2011年、1ドル75円。歴史的な円高といわれた。今のドル円は160円だから、ざっくり円が今の倍の価値を持つ時代だった。

その頃の僕は、日本の外に出ることに対する興味が薄かった。何か特別な理由があったわけじゃない。

友人たちは大学生の特権といわんばかりに、夏休みのたびに海外へ出かけていた。東京からバンコク2泊3日、ホテルと飛行機がついて2.98万円だった時代だ。無駄にシベリア鉄道でロシアを横断するやつがいた。ガラパゴス諸島まで行ってみるやつもいた。ウユニ塩湖もマチュピチュも、今となってはハードルの高い場所に思えるが、当時は「みんな行ってるからつまらない」と言えるくらいありふれた行き先だった。

思えば、恵まれた時代だ。

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旅は自分の普段の生活と陸続きになく、非日常で、一方で日常でもある。知らない文化と街をみて、あたらしい人々と関わって、自分の中にあたらしいメガネが一枚増える。

未知の場所を開拓するあのワクワクとした喜びを、圧倒的に円が強くて外に出かけやすかったあの時期に、僕は感じる機会を少なく過ごした。本当にもったいないことをした。

1ヶ月の旅に出かけるなど、今となってはむずかしい。せいぜい1週間が関の山だ。時間もお金も、有限だからこそ価値がある。あまり悔やんでも仕方がないのはわかっている。

未知へ向かう気持ちをうまく消化できないまま、僕は今月も来月も旅に出る。あとどれくらい出かけられるのだろう。世界の広さを思うと、僕の残された時間は圧倒的に足りない。