2014年の夏、ニューヨークにひと月いた。そのとき、大学の友人であるヤンくんに会った。彼はその後、ニューヨークで医師として働くことになる。

彼とはロウワーマンハッタンのチャイナタウンから、20kmほど歩いた。何をするでもなく、ただ北へ向かって歩き続けて、59丁目のあたりで寿司を食べた。一人2万円くらいだったと思う。一日歩いて疲れきったあとの寿司で、高かったが、うまかった。

道中も、寿司屋でも、同じ話をしていた。
日本の保険診療制度なんてとっくに崩壊している、今後は加速するだけだ、とヤンくんは話していた。給料も低いし、やりがいも低い。安い値段でこき使われるのが嫌なのだと。
まったく同感だった。そして12年経った今、それは確実に証明されてしまっている。直美問題をはじめ保険診療を担う若手ドクターは減っている。
ヤンくんの紹介で、日本人の医師に5人ほど会った。ニューヨークで働いている人、ボストンで働いている人、研究で来ている先生。
話は、アメリカで医師としてやっていくにはどうするか、に終始した。理念の話ではなく、実利的な話だ。とくにvisaの話が多かった。みんなでオイスターを食べて、そのあとジェラートを食べて解散した。
当時の僕には、正直なところ何もわからなかった。彼らの話の中身も、その選択の重さも。ただ、日本でもアメリカでも医師としてやっていくことができるのだ、という選択肢の幅は見せてもらった気がする。
・・・
あれから12年経って、僕は日本でクリニックを経営している。
彼が嫌だと言った「安い値段でこき使われる」構造の中で、僕は今度は経営する側に回っている。安い値段のビジネスをやっていることには変わりないのかもしれない。
まだ道半ばだ。悩ましい。
